柴田 初江(仮名)さん (87)さい
あの時、彼女は確かに死んでいた。
午前2時。 1時間ごとの居室巡回。 一部屋づつ、一人づつ利用者の状態確認。
静かに訪室し、静かに退室する。 常夜灯のほの暗い廊下を歩く……。
柴田さんの居室に来た。
ベッドわきに設置したポータブルトイレに腰掛けた後ろ姿。 失礼、トイレタイムでしたか。
夜間は、ふらつきや転倒が特に心配される。 ここは介助するべし。
「柴田さん、済みましたか?」「パンツ上げるの手伝いますね」
⁇返答なし。 さては座位のまま寝ちゃってる?
「柴田さん」と肩をちょんちょん。
「しばた・・・」って、白眼。 白眼をむいている!
両肩を揺する・・・。あぁグニャグニャ。
背中を叩く。ほっぺも叩く。 反応なし。
いかん!
ナースコールで夜勤の相方を呼ぶ。
「柴田さん‼」我々二人は大声で呼びかけた。
反応なし。
絶望。
相方と二人、顔を見合わせ互いにうなずいた。 ダッシュ❕
119番通報! 次に家族に連絡!
一人が救急車に同乗し、一人が残って夜勤業務続行。
柴田さん。毎月、月末に2泊ご利用くださる常連さん。ご家族のレスパイト目的でのご利用。
得意なレクリェーション(輪投げ)。歌は嫌いだと言ってたが、帰り際には決まって(仰げば尊し)を
歌いながら車椅子上で手を振った。
柴田さん。あぁ。顔色もみるみるうちに白くなっていく・・・。
救急隊が到着。(通報から8分であった。)
ストレッチャーに乗せられ、その間もピクリとも動かなくなってしまっていた。
救急車内に滑り込まれる。
私も乗り込む。
救急隊員に協力病院の名を告げる。隊員が病院に連絡を取る。その間、別の隊員に柴田さんの既往歴その他基本情報を答える。
協力病院の受け入れオッケーの返事を受け、救急車が動き始めた。
助かりますように。どうか助かりますように・・・。
「ここ、どこでっか?」
ウソ!
柴田さん。
今ですか?
ストレッチャーの上で我々に、フツーに問いかけるあなたは、あなたは黒目。
困惑気味の救急隊員と、前のめりのワタシ、生き返った柴田さん。
今、確実に悪魔が通り過ぎた・・・・。
ご利用ありがとうございました。
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