おいてけぼり

「おかけになった電話はお客様の都合によりかかりません．．．」　　　　困った。訪問のアポをとろうと電話をかけたが繋がらない。　　堀様はケータイを持っていない。　　仕方がない、安否確認もしたいし…突撃訪問してみるか。　　　国道沿いに立ち並ぶ大型家電量販店の裏手にひっそりと取り残された2階建文化住宅。全部で12の玄関扉があるが、そのほとんどは外からダイヤル式の鍵がかけられ空き家となり、今は堀様を含め3世帯（3名）が暮らしている。　

やはりお留守。
玄関先で待つこと15分、シルバーカーいっぱいにスーパーの袋を積んだ堀様が帰ってらした。　　待っててよかった♡ラッキー♡　　　　「おかえりなさい」　「なんやアンタ、今日約束してたか？ハンコ押す日か？」「いえ、電話がつながらなかったので、気になって…。」「あぁー。へへへっ」としわがれた笑い声。

「ワタイ、電話代、使うてしもてん。ほんで電話、止められてまんねん」。　　堀様の年金は1ヶ月4万円程度。ご家族はなく、一部生活保護を受給している。お見せできないのが残念ですが、お顔は岡本太郎画伯にそっくりです。　　「まぁ上がってちょうだい」　　板のめくれた玄関ドアを開けた堀様に続く。　　上がり框が高く、暗いため手すりをレンタル中（介護保険サービス）。「昨日と今日はスーパーの特売日やったからな。まとめ買いしましてん」「ほんならアンタ、電話代もなくなって(^^ゞスッカラカンや！」　あーあ。そんなことやろうと思ってました。
「ほんなら今朝、うまい具合に男の人が訪ねてきてなぁ。いらなくなった服とか靴があったら買います！って言うんよ。」「助かった！と思ってな、履き古した靴下やボロを出してやったんよ」　　ムムッ⁉　

　「ほんなら、指輪とかネックレスとかないんか？、って聞きよるんや」　　それ、詐欺とちがいますか？
　「そんなもんあるか！！って怒ってやったわ。ほんまに持ってないしな」「ほなその男が不服そうな顔して靴下とボロ持って帰ろうとするから、ワテ、タバコ代くらい置いていけ‼、って言うてんけど。「タバコ代にもなりまへん…。」って言よった。」

「ホンマにきょうびは厚かましい人間が多いからな。アンタも気ィつけなあかんで！」「はい・・・。」　　　　　　　　　「ところでアンタ」　「はい」　　　

「アンタも何にも置いていかんのかいな？」「！」　「せっかく来たんやから、ポケットティッシュでも置いていかんのかい⁉」　　
　まったく．．．。あ、そうそう、最近貴金属を狙った訪問詐欺や電話での詐欺も多いので注意するよう呼びかける広告を警察署から預かっていました。「こちらどうぞ。警察からの呼びかけです。よく読んでおいてくださいね」　　　堀様には必要なさそうですけど。　　頼もしい限りです。　　　　「置いてけぇ～。おいてけぇ～～」

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